地頭力を鍛える~AMEXが年会費を1円にしたら儲かるか~

 
ビジネスケースのフェルミ推定を行っていきます。
前回行ったシカゴのピアノの調律師の人数を考えることよりも、
より専門的になってきます。
 
▼前回の記事
 
今回は自分が個人的に好きな問題です。
 
▼今回の問題
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AMEXはカード会社間の熾烈な競争にさらされています。
強豪のカードは年会費無料やマイレージサービスなどとの提携で攻勢をかけてきています。
AMEXは思い切って年会費を大幅に安くして、年会費1円にすることを考えています。
これは良いアイデアでしょうか??
下記の情報を参考にしてみてください。
ⅰ.AMEXの年会費は1万2,600円
ⅱ.クレジットカードブランドの世界シェア

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(あらためて見ると、世界の国際ブランドは圧倒的に稼いでいます。笑
AppleとVISAがバチバチやり合っているのも頷けます。)
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さて、みなさんをどこからアプローチをしていきますか。
この問題はビジネスケースの問題で過去に多くの戦略コンサルティング会社で出題されました。
決して難問ではありませんが、問われていることをよく考えないと的外れな回答になってしまいます。
さっそく、前提確認をしっかりしましょう。
 
①前提確認
 
問いの前提確認の以前のお話ですが、
面接などで聞かれた場合によく間違えて答えてしまうのが
「AMEXは高所得者層向けのブランドに特化すべき。マーケティングのキャンペーンを考えます。」
といった回答になります。
 
上記のような答えは完全に論点のすり替えですので、面接官のいっていることに対して的確に回答をしていかなければいけません。
面接で聞かれた場合には面接官の求めている答えはそういうことではありません。
 
・もし年会費を下げて会員がたくさん集まるのならやるべき
・年会費を下げた分の減益を回収できないのでやるべきではない
などの、やったほうが良いのか・悪いのかの2択で結論をだすことが大切です。
 
今回のやる・やらないの結論を出すために必要な要素として、
クレジットカード会社の収益(ビジネスモデル)を挙げることができます。
 
②アプローチ設定
 
クレジットカード会社の収益源は大きく分けて2つ挙げられます。
1つは年会費、もう1つは買い物の際の手数料になります。
(今回はリボの利用額は考慮に入れていません。)
 
式にするとこのような式になります。
 
カード会社の収益=[年会費+(会員1人あたりの年間利用額×加盟店手数料率)]×会員数
 
③モデル化
 
今回は参考としてあらかた数値を出しているので、年会費、利用額、会員数はの数値は揃っています。残りの加盟店手数料率をどう出すのかですが、感覚的にお店・お客さん・カード会社とプレイヤーがいて、消費税の5%が取られている現状ですので一旦消費税の半分以下の2.0%として考えていきましょう。(あんまり立ち止まらないほうがいいです。)
 
④計算実行
AMEXの売上を見積もって行きます。
カード会社の収益=
年会費+(会員1人あたりの年間利用額×加盟店手数料率)]×会員数
式であるように大きく分けて年会費収入と手数料収入を導き出していきます。
 
○年会費収入
データから発行枚数が1億1000万枚です。つまり、会員が1億1000万人いるとして、これに年会費を掛け算します。
1億1000万枚×1万2600円=1兆3860億円
これが年会費収入になります。
 
○カード手数料収入
次に手数料収入についてですが、頭出ししたデータでは年間110兆円となっており、さきほど加盟店手数料率を2.0%としました。よって、導き出される答えは下記になります。
110兆円×2.0%=2兆2000億円
 
AMEXの収益は年会費と手数料収入で合計3兆5860億円という答えが出せました。
 
⑤検証
最後に検証を行っていきます。今回行う検証としては、年会費を1円にして儲かるのか?儲からないのか?を検証していきます。
 
年会費と手数料収入で合計3兆5860億円という答えが出せましたが、割合でみると年会費の収入が39%と手数料の収入が61%となりました。
 
ですので、年会費を1円にすることで39%の収入が無くなることを意味しています。
そこで出てくる疑問が会員を増やして39%減った収入をカバーできるのかということです。
 
ここでまず年会費が下がったことで会員が増えると仮定します。
この増えた会員がカードを利用することで、どのくらいの収益が見込めるでしょうか?
 
現在、会員1億1000万人の会員で手数料収入を2兆2000億円上げています。年会費の収入のカバー分だけでも、単純計算で手数料だけで3兆6000億円ほどの売上が必要になります。
 
1億1000万人:2.2兆円=??万人:3.6兆円
 
これを計算すると答えが1億8000万人。
7000万人増です。つまり39%の会員数の増加を見込まなければいけません。これは現実的でしょうか?
 
現実性を判断するには2つの観点があります。
まず会員の獲得の観点ですが、そもそも年会費を1円にして会員が増加するという前提でしたが、本当に会員は増えるのでしょうか。競合他社のクレジットカードの年会費は0円のところが多いです。AMEXも横並びにしたところで急激に会員が増えるとは思えません。
 
もう一つは新しい会員が買い物に使う金額の問題です。参考データの取扱高を発行枚数で割ると1会員当たりの利用金額が算出できます。それを算出したのが以下の図です。

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AMEXの利用額年間100万円というのはダントツに高いといえます。高所得者層をターゲットにしているからこそこの数字を出せているのです。

年会費1円の魅力に惹かれてAMEXのカードを作る層というのは大衆層であると想定できます。

仮に大衆層がカードを作成し、VISAの33万円ほどの利用をした場合には話の前提が大きく崩れてしまいます。

年間100万円利用の想定で7000万人(39%増)の会員増が必要だったはずですが、これが年間33万円の会員しか獲得できないとすると、2億1000万人もの増加を必要になります。

この数字は会員数を3倍以上にしてくださいといっているということですので、短期間での達成は到底不可能です。

 

ここから導き出される回答としては、AMEXの年会費は1円にするべきではないということになります。

どうでしたか?フェルミ推定もビジネスに応用していけばどんどん面白くなっていきます。