地頭力を鍛える~マンホールの蓋はなぜ丸いのか~

 
マンホールの蓋はなぜ丸いのでしょうか。
この問題は Microsoft の入社試験に出されたということで大変有名になっている問題です。
 
一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
いくつかの本でもこの問題の解答が開設されています。
模範解答として次のような答えが挙げられています。
・四角いと穴がふたが穴に落ちてしまうから
・なぜなら正方形の対角線の長さルートにつまり1.14の長さがあるから
これは有名な問題なのでこの記事を読んでいる人の中には答えを知ってますよ、とばかりこれを唯一の正解と捉えてしまっていて、それでこの問題をクリアできたと勘違いしてしまう人がいるかもしれません。では他の答えを言えればいいのでしょうか。
 
穴に落ちてしまうから以外の他の模範的と呼ばれる回答例についてもあげてみましょう。次のようなものがあります。
 
・マンホールの蓋はマンホールの穴の形状に合わせて作られている。
・丸い穴は四角い穴より掘るのが簡単でありコストもかからない。
・マンホールの穴は周囲の地面の圧力を支えなくてはいけない。四角いものより円柱の方が圧力を分散できる
・工事の際にはなるべく人力で運んだり外したりする必要がある。そのためには車輪のように回転させながら移動することができる円形が有利だ。
 
これらの回答を全てさらさらと言えれば模範的と言えるでしょうか?
そもそもこの問題は典型的な答えのない問題です。
その問題の模範解答を覚え手応えがあると考えてしまう時点で思考が停止しています。
答えのない問題に対する誰かの答えを暗記してそれを使って答えてしまうという行為がナンセンスかをまずは理解して欲しいと思います。
答えのない問題の本質は何度も繰り返しますが問題に対してどれだけ自分の頭で考えることができるか。自分なりの分析をすることができるかという点です。
 
▼自分なりの分析とは
では自分なりの分析とは何をすることなのでしょうか?
上記の四つの答えは一見すると答えになっているように見えますが、
Microsoft の入社試験でその答えだけを出したとするとかなり怪しいです。
四角だと穴に落ちてしまうからという確かにそういう現象があるかもしれません。しかし、私はこの問題を議論するとしたらこういうツッコミをします。
四角だと穴に落ちてしまうからというのが非常に重要なファクターだとするなら、どうしてそのファクターが他のファクターに比べて重要なのか。
例えば圧力に耐えられるといったファクターと比べても穴の形を決める最も重要なファクターとなっているのか。
例えば自分なりの分析と言えるのは以下のようなアプローチでしょう。
「マンホールのユーザーとは一体誰か?ユーザーはマンホールの形状によって誰がどのようなベネフィットを得るのか?といった観点から分析して答える。」
そういう方向性で私の分析をしてみることにします。
 
▼比較対象を考える
丸い蓋の競合として四角い蓋を考えることにします。
四角い蓋は街中でたまに見かけることがあり、比較の対象としては良いでしょう。
三角の蓋もありえますが現実的に見かけたことがないため除外します。
考える対象は丸と四角とします。
▼ユーザーからバリューチェーンを考える
マンホールのユーザーは誰でしょうか。最初に考えられるのはこれらを直接使う人です。つまり、マンホールを開けたり閉じたり工事をしたりメンテナンスをするような業者です。次にマンホールを製造販売する会社があります。最後はマンホールが設置された街を使う第三者です。つまり、我々歩行者や車ということになります。
これらをつないでいくとバリューチェーンのようなものが出来上がります。つまり、マンホールに係るユーザーを川上から川下まで表すのです。
これを横軸としてみます。そこで、それぞれのプレイヤーがマンホールの蓋の形状を検討するとしたらどのような観点があるのか。その場合を出してこれを 縦軸にします。
例えば製造業者であれば製造コストが一番気になります。四角よりも丸の方が製造コストが安いのであればそちらの方が有利なはずです。工事業者ではどうでしょうか。とりあえず海の簡単さといった便利便性があげられそうです。いくつかの評価ポイントがありそうです
その1、作る側の観点から考える
まずはマンホール製造業者から見た観察です。製造側から最大の鑑定は生産個数です。生産コストは材料と加工に分けられます。変わるとすれば加工のところでしょうか。常識的には丸型の学校野球場の方が難しいように思います。さらに取扱を丸型だとピタリと重ね合わせることができませんから在庫として追加されたりトラックに積んで運んだりするときも四角い方が取り扱いが楽なように思います。
そこに置く際にも四角い方が隙間なく積むことができますし、がっちり固定もできそうで揺れません。作る側の観点を総合すると、特に理由がない限り丸よりも四角の方が有利だと推測されます。丸でないといけないという理由はひとつも見当たりませんでした
その2、第三者(利用者)の観点から考える
一つ飛ばして第三者(利用者)の観点から見ています。第三者の鑑定は安全性が大事でしょう。第三者から見たマンホールの安全性というのはその上を通行するときに用意に外れたりしないということと考えましょう。丸い方が圧力を分散するため上に車が通ったとしても外れにくいと考えられます。このトラックが走るような道路上ではクリティカルなさになります。
巨大なトラックが走る道路上でマンホールの蓋が外れれば大事故につながります。
一方、歩道上ではマンホールの蓋を跳ね上げることができる人はいません。構造上では四角でもあっても構いませんが、道路上にあるマンホールで問題になりえます。もし、蓋の形状によって外れやすさが大きく違うということであれば、他のファクターを差し置いて丸を選ぶクリティカルな理由になりそうです。これは検討に値します
その3、施工メンテナンスがから考える
最後は施工メンテナンス、つまり工事の観点から考えます。
コスト・利便性・安全性のファクターそれぞれについて検討します。
最初のコスト面でおそらく製造コストは丸型の方が高いと考えられ、直接の仕入れのコストを考えると丸型の優位性は低いと考えられます。
次は利便性です。施工面で言えば穴に合わせた穴を開ける必要があります。ドリルなので穴を開けるのですから丸型の方が開けやすいと言えます。
特に深い穴を開ける場合は丸型の穴が主流になるでしょう。むしろ穴が先にあってそこにいたの形を合わせている可能性もありますし、工業所からすると穴を掘るコスタ非常に高いと想定され工事費のほとんどを占めると考えられます。穴に合わせて蓋を作る方が合理的であると考えられます。
おそらく深い穴は丸いと想定されます穴がなかったところにドリルでくりぬくか、一方で浅い穴は、面積を掘り起こしてから上から蓋をするようなイメージです。浅いは四角い蓋がしてあることが多いと考えられます。
メンテナンス面ではどうでしょうか。ふたの開け閉めを考えます。丸い蓋は主に閉めるときにどの方向からも閉めることができて簡単です。
また転がして移動できるので力のない作業員でも簡単でしょう。また穴に落ちないため適当に開け閉めしても大丈夫そうです。いずれも丸が有利ですが、それほど決定的な要因ではなさそうです。
最後に安全性ですが丸い穴が落ちてこないと言えます。これも単体で見ると決定的な要因には思えません。ただし前述の深い穴と組み合わせると重要な要因であると考えられます
ここで仮説をまとめます。
蓋の形状を決めるのは最もコストのかかる穴の嗜好に合わせてである。マンホールは深く垂直に穴を掘るために丸い穴が多い。丸い蓋の方が価格が高くても、穴の施工に比べれば微々たるものである。
次に穴が深いとなると作業員の安全性が問われる。
深い穴の場合絶対に蓋が落ちてこないようにしないといけない。浅い穴の場合は、穴の形もまれではないし、安全性もさほど問われない。だからコストや運搬などの面で有利な四角い蓋を使う場合がむしろ多いのではないか?
大胆な推測ですが要するに「穴の深さが穴の形状を決めている」という仮説です。
 
直接検証できればいいのですがもっと良い方法があります。
自然科学の分野で仮説の検証を行うときに有効な方法として使われている、
判例を探すというものです。
この場合の判例は深い穴なのに四角の蓋が使われているケースです。
これが見つかるようであれば仮説は NG です。もしこれが全くが見当たらない場合はこの仮説は強力なものであると考えられます。
同じ思考法で蓋のはずれやすさの方も検討しましょう。
トラックが通るような道路上で外れないように丸い蓋を使うというのが仮に正しいとすれば、判例を探すとすると「トラックが通るような道路上なのに四角い蓋がある」ということです。
以上のような考察から私なりの結論を得ます。
マンホールの蓋が丸なのか四角なのかを決める理由としては、
主に次の二つが考えられます
一つ目や穴の深さ工事業者側の施工コストと安全確保
二つ目はマンホールが道路上にあるか否か公共の安全性ですこの二つが最も重要です他の例えば工事の際には人力で運んだり外したり必要があるそのためには車輪のように回転させながら移動することができる円形が有利なはずだといったものは付属的なベネフィットに過ぎずマンホールの形を決めている決定的な要因ではないものと考えられます。
 
以上で「マンホールの蓋はなぜ丸いのか」についての考えを述べました。
大切なことなのでもう一度書きますが、答えを暗記して答案することにあまり意味はありません。
なぜその答え、意思決定に至るのかを自分の頭で考えることが大切です。
その自分の頭で考えることの訓練として、フェルミ推定がとても勉強になるのです。